リブランディング第一弾プロダクト、口元にフォーカスした〈BENI〉の発売で新たな舞台へと踏み出した『fucica』。
このリブランディングにサスティナブルな化粧品容器事業というかたちで携わった日東電化工業『OSAJI』ディレクター茂田正和さんが聞いてみたかったこと。
『fucica』のディレクターであり、またメイクアップアーティストでもあるYUKOが大切にしていること、そしてクリエイティビティについて。
『fucica』=自分そのもの
YUKOの信条と創造性
茂田:YUKOさんがワークショップ的にメイクのタッチアップをする時ってお客さまとこういう感覚を共有したい、というような明確な意図はあるんですか?
YUKO:そうですね。
『fucica』で一番最初につくった黄色、赤、黄緑、水色などのアイシャドウって、ぱっと見は誰もが使いやすい色味ではない中で。それでも何かが気になって見てくださっているお客さまには、日常生活に触れるようなお話をしながら「本当に好きな色って、何色ですか?」というお声がけをしたりします。
茂田:メイクアップだから、という前提をひとまず脇に置いてもらって。
YUKO:そうですね。その上で「どの色をつけてみたいですか?」と聞くと「実は、この色をつけてみたかった」「せっかくだから、この色をつけてみたい」という本音をもらしてくれる方が多いんです。そうなったら、あとは一緒に冒険しましょう!という感じで、わくわく感を共有できる。もちろん、普段使いできるようなつけこなし方もお伝えします。
茂田:どのお客さまも、帰る時にすごくふわっとした良い笑顔になってる。そういう場面を僕は何度も目撃したんです。YUKOさんのタッチアップには不思議な魅力があるんですよ。
メイクでコミュニケーションの壁を突破できるってすごい強みです。
YUKO:それは、本当に嬉しい褒め言葉です。
茂田:少し切り口は変わりますが自身とのコミュニケーションについて。YUKOさんは、絵を描れるじゃないですか。いつもどんな感じで描かれるんですか?
YUKO:絵に関しては、もう感情の赴くままですね。気持ちをそのまま描く!という感じです。
茂田:何かテーマはあるの?
YUKO:やはり人ですね。誰かを思って描く、というか。
茂田:といっても人物画とかじゃなくて抽象的な絵だよね。昔からドローイングとかが趣味だったの?
YUKO:そうですね、かなり抽象的な(笑)絵を描きはじめたのは最近なんです。引っ越ししたり、離婚したり、生活環境がこれまでと変わって心地よいと思えるライフスタイルが始まったら、「あ、絵を描きたい」と自然に。
茂田:絵を描くことと、化粧品をつくってプレゼンすることとの関係性はある?
YUKO:そうですね…何をするにも強く思うのは、一人一人と対話を重ねていきたいし、ブランドも含めて自分自身にきちんと向きあいたい。使ってくださる方にもちゃんと向き合っていきたい。そういったことなんですけど。
茂田:ああ、つくるにしろ、描くにしろ、“人を想って”というところが共通していてYUKOさんの原点という気がします。
YUKO:確かに、そうですね。
茂田:今回〈BENI〉の発売に際してサスティナブルなものづくりとかホリスティックという考え方についてはかなり話し合ったし共通認識があると思うんだけど。
『fucica』というブランドの社会性についてはどんなことを思っています?
YUKO:正直なところ、いまの自分の事業規模感では一般企業のような社会貢献はできない、ということは十分に理解してます。
なので今回の〈BENI〉ではレフィルをセットできる真鍮の容器を採用し「1つのものを大切に使い続ける心」を伝える、というかたちでサスティナブルをテーマとして取り入れたいと思ったんです。
茂田:そういった日常の中で捉えられる感覚こそ僕は大切だと思うんです。化粧が持つホリスティックな働きかけにしても実はシンプルなことなんじゃないかと感じていて。僕の母は少し前から認知症が始まって、もう昔のようにしっかりメイクをしないんだけど「口紅をつけてみようよ」と声をかけると「えっ?」って言いつつも口紅をつけた途端に良い表情になる。ああ、外側だけでなくちゃんと内側にも作用しているんだなって。
YUKO:私の祖母も、いまは他界していますが92歳くらいの時にメイクをしてあげたことがあってその瞬間だけ、ぼんやりとしていたのが凛とした雰囲気になったのを覚えてます。
茂田:YUKOさんのものづくりやアプローチは、メイクからちょっと距離を置いてしまった人にもう一度その愉しみを思い出してもらうようなそういう要素がかなり強い気がします。
YUKO:友人の結婚式でメイクを担当した時や、着物は着るけれどメイクはあまりしない母親にメイクをしてあげた時もそうなんですけど、とくにチークを効かせたわけでもないのにみんな血色が良い顔つきになるんです。そういう内側からいきいきする姿を見られることが私にとっていちばん嬉しくて、ずっと続けていきたい、かけがえのない財産と思います。
茂田:素敵ですね!僕が『OSAJI』でもカラーメイクを手がけたい、と思うようになったのもYUKOさんの影響が少なからずあると思う。今後『fucica』というブランドでやっていきたいことはほかにあります?
YUKO:『fucica』=自分、でもあるので。自分の成長に合わせて心が豊かになるようなものづくりをしたいです。いま思い浮かんだところだと香水とかメイクアップの枠を超えて表現していけたら。
茂田:コロナ禍のこの1年間で「誰かに良く思われるため」から「自分自身が快適で心地いい」へ美容観がシフトしてきていますよね。だから、YUKOさんのようなアーティストはより受け入れられやすくなってきてると思う。
YUKO:ありがとうございます!そうなっていったら嬉しいです。
茂田:では最後に、YUKOさんが好きな色、いまの心境にしっくりくる色は?
YUKO:“大和色”の深緋(こきひ)という色です。黄みやオレンジみを感じる赤です。とても高貴な色として知られていて『fucica』にとって象徴的な色の1つでもあり、この色を見ると「ちゃんと生きよう」とそう思えるんです。